シアターアプルで公演をしているキャラメルボックスが騒音問題で揺れています。御存知でないかたは、プロデューサー加藤昌史さんの日記をご一読下さい。
http://www.katoh-masafumi.com/diary/
規模が全然違いますが、私たちも同じような問題に直面したことがあります。そして当時の私たちは加藤さんのように闘うことができませんでした。そのことを書いておこうと思います。
1998年に、私たちは"knob"という作品のリメイクを決意しました。会場として選んだのはウエストエンドスタジオ。http://www.studio-life.com/westend/
4人だった登場人物を7人に増やして物語を重層化させ、当時の私たちに考え得る最高のキャスティングで上演に臨みました。(tsumazuki no ishiの木立隆雅さんや青島レコード主宰の岡田望さんも出演していました。)
満を持した上演の筈でした。
しかし、その"knob"を階上からのたいへんな騒音が襲いました。きくと、上が音楽の練習スタジオになっているということです。ベースギター、ドラムの重低音がはっきり響き渡ります。劇場からの説明は次のとおりでした。
「上の音楽スタジオとは経営が違うので私たちにはなんともできない」
「ほかの劇団は普通、公演時間に合わせてスタジオを押さえてやっている」
これはもちろんおかしいですね。同じ「スタジオライフ」の名前で同じデスクで受付をしているので、子供にもわかるような嘘です。社長を出せ、とすぐにいえばよかったと今は思います。また、騒音の可能性が常態的にあるならば下見や契約のときに重要事項としてきちんと説明がなされるべきです。そして、公演会場として劇団に貸すならば、その時間帯に静けさを確保するのは劇場の仕事の筈です。
思えば仕込みのときから、「この劇場はどうかしてるな」と思っていました。照明機材の数は機材リストと大きく違うし、音響卓の数チャンネルにはテープが貼ってあって「NG」と書かれていました。常識的なメンテナンスと劇団への連絡がまったくなっていません。
"knob"の舞台となっているのは開発中止になったテーマパークの片隅にあるビルの一画です。静まりかえったフロアで人々が出会い、交錯するストーリー。騒音などあってはいけないのです。
担当者は、「本番の時間には改善する」というようなことをいいました。しかし、まったく何もなされないまま初日があきました。私は乾坤一擲で造りあげた初日の舞台を見ることなく階上の事務室に駆け上がらざるを得ませんでした。担当者は「やっぱりだめですか、明日にはもっとよくします」との返事。
「よくします」の内容は次のとおりでした。「バンドに音を絞ってやってもらうようお願いする」
「大きく響くのはベースアンプなのでベースアンプの下に毛布をいれる」
経営もとが違う筈のスタジオでそんなことができるんですか、と思わずいいたくなりましたがそれ以上のことはできないといわれ、ひきさがらずを得ませんでした。「今から会場を出て行く私たちのお客さんに謝ってくれ」ともいったのですが、これにも応じてもらえませんでした。
本番二日目。まったく同じようにバンドの重低音が響き渡っています。階上を駆け上がり、こんなのじゃ全然だめです、と伝えました。担当者も私たちに腹を立てているようで、「そんなに気になりますか」「じゃあ客席に行くんで状況を見せてください」と逆ギレのようなことをいわれました。もう開演しているし、客席通路を使用する演出なので客席に連れていくことはできません。担当者は「じゃあ楽屋に行きます」とまで言い出しました。楽屋に行っても客席でどう聞こえるかなんかわかりません。この人はただ、「こんなの問題ないでしょ」というためだけにそのことをいっているのです。結局楽屋通用口から俳優のスタンバイしている通路を抜けてお客さんに見えるギリギリのところまで連れて行かざるを得ませんでした。もちろん何も解決しません。ただ俳優の邪魔をしただけです。
「今すぐバンドの音をとめてください」と私は制作と一緒に繰りかえし繰りかえしいいました。そうしないと「あらゆる手段を検討する」とまで。ついに、わかりましたとの言葉を引き出しました。じゃあ、バンドさんにお願いしに行きますので、といって上に行こうとするところを、私は「一緒に謝りに行きます」と強引に同行しました。「お願いしましたがダメでした」ではたまらないので。
練習中のロックバンドはなにもきかされていませんでした。「ベースを絞ってくれ」ということもきかされていず、ベースアンプは普通にフロアに置かれていました。この時間に芝居が本番中だということも説明されていないようでした。バンドメンバーは「あしたライブなんだよ」とたいへんな怒りようでした。
3日目から、"knob"はやっと"knob"になりました。そのときの気持ちは今でも忘れられません。安堵より、腹立ちより、一番の思いは最初の二日間に足を運んでくれたお客さんへの申し訳なさであり、戻ってこない2ステージへの無念の情であり、自分への不甲斐なさでした。
制作と相談し、夏にも入れていた予約をキャンセルしました。(これによって次回公演の会場をすぐに探さなくてはなりませんでした)そして、以後の交渉はすべて制作が引き継いでくれました。私はこの劇場に1円も払いたくないと思っていて法的闘争も視野に入れていましたが、劇場はバンドスタジオのキャンセル分を僕たちに払わせようとしていて、泥沼の闘いが目に見えていたからです。
「他言無用にお願いします」といわれていましたが、そんなお願いをきく義理はありません。7年黙っていたからもういいだろうとも思います。心血を注いだ公演を損なわれた怒りは永遠に消えません。劇場をやるなら作品を守り続けてくださいと言い続けたい。スタッフが作品を見ないでただ会場費をまきあげる劇場は、淘汰されていくべきです。
7年間、あの劇場には足を運んでいません。
"knob"は翌年、劇作家協会の新人戯曲賞を頂き、すぐにWENZスタジオで再演されました。http://wenz.jp/
劇場とのトラブルを防ぐために舞台監督を小野八着さんにお願いしたのもこの公演からです。
初日に、WENZスタジオからケーキがプレゼントされました。(階上は手作りケーキのおいしいカフェです)
ケーキには「公演おめでとうございます」とデコレーションがされていました。
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